天皇即位の際に授受される神璽は、鏡・剣・玉のいわゆる「3種の神器」とされます。
『記』『紀』天孫降臨段に、「3種の神器」についての記述がみえます。
時に天照大神、勅して曰はく、「若し然らば、方に吾が児を降しまつらむ」とのたまふ。
且将降しまさむとする間に、皇孫、已に生れたまひぬ。
号を天津彦彦火瓊瓊杵尊と曰す。
時に奏すこと有りて曰はく、「此の皇孫を以て代へて降さむと欲ふ」とのたまふ。
故、天照大神、乃ち天津彦彦火瓊瓊杵尊に、
八坂瓊の曲玉及び八咫鏡・草薙剣、三種の宝物を賜ふ。
『紀』神代紀第9段一書第1
爾くして、天児屋命・布刀玉命・天宇受売命・伊斯許理度売命・玉祖命、
幷せて五りの伴緒を支ち加へて天降しき。
是に、其のをきし八尺の勾璁・鏡と草那芸剣と、
亦、常世思金神・手力男神・天石門別神を副へ賜ひて、詔ひしく、
「此の鏡は、専ら我が御魂と為て、吾が前を拝むが如く、いつき奉れ」とのりたまひ、
次に、「思金神は、前の事を取り持ちて政を為よ」とのりたまひき。
『記』神代記
『紀』に「八坂瓊の曲玉及び八咫鏡・草薙剣、三種の宝物」、『記』に「其のをきし八尺の勾璁・鏡と草那芸剣」とみえることが「3種の神器」の根拠となっています。
いっぽうで、『紀』の天皇即位の記述において、「神璽」は、鏡・剣の2種とされます。
9人の天皇(允恭・清寧・顕宗・継体・宣化・推古・舒明・孝徳・持統)に神璽の授受の記述がみえ、そのうち3人(継体・宣化・持統)に内容が記されています。
継体は「天子の鏡剣の璽符」、宣化は「剣鏡」、持統は「神璽の剣・鏡」と何れも鏡・剣のみです。
また、神祇令践祚条に次のようにみえます。
凡そ践祚の日には、中臣、天神の寿詞を奏せよ
忌部、神璽の鏡・剣を上れ
当時、「神璽」が鏡・剣の2種を指していたことが明らかとなっています。
(岩波文庫『日本書紀(1)』1994年、補注2-19)
「神璽」について、2種、3種という2つの観念がみられることに注目します。
「鏡」「剣」が先に成立し、「玉」はその後付加されたというような事情が想像されます。
◇ 「草薙剣」は、熱田で尾張連により祭祀された。(→ 尾張連による草薙剣祭祀)