玉祖神社と恩智神社

河内国高安郡の式内社である玉祖神社は、大阪府八尾市神立に鎮座します。

『和名抄』の河内国高安郡玉祖郷であり、主祭神は、天孫降臨神話に五伴緒の一人、玉祖命(玉作上祖玉屋命)です。

奉祭氏族とみられる玉祖連について、『姓氏録』河内国神別に次のようにみえます。

玉祖宿禰  同神(天高御魂乃命)十三世孫建荒木命之後也

玉祖神社は、恩智神社との特殊な関係がみられます。

元禄5年(1692)「寺社吟味帳」(玉祖神社文書)に、祭神が和銅3年(710)に周防国佐波郡からこの地に遷座したことが記され、また、「恩智大明神縁起」(恩智神社文書)には、和銅年中、玉祖神社が鎮座する際、恩智社に地を請い、高安郡7郷のうち6郷を与えられたことが記されます。

高安郡7郷のうち6郷とは、殆ど全部といえます。

『延喜式』神名帳の周防国佐波郡に、玉祖神社がみえます。(山口県防府市伊佐江)

なぜ、恩智神は玉祖神に、高安郡の殆ど全部を与えたのでしょうか。

『和州五郡神社神名帳大略註解巻四補欠』所引「多神宮注進状裏書」に、「高安郡春日戸」にある「高座天照大神御魂大杜天之昇玉杵尊二座」がみえます。

「高座天照大神御魂大杜天之昇玉杵尊二座」は、恩智神社を示すと思われますが、「天之昇玉杵尊」とは「玉の神」といえます。

また、「高座天照大神御魂」「大杜」は、それぞれ、近隣の天照大神高座神社、掃守神社を示しています。

(→ 「多神宮注進状裏書」にみえる河内国の神社

恩智神は、複数の要素を付加しながら変遷したのではないかと想像され、恩智神が玉祖神に高安郡6郷を与えた伝承は、そのことに関わるのではないかと思います。

◇ 恩智神社は住吉大社と春日大社と深い関わりが認められ、さらに周辺に、天照大神高座神社・玉祖神社・掃守神社など記紀神話伝承と関わりをもつ神社が密集し、秦氏の寺が所在するなど、当該地域の特殊な性格が窺える。(→ 河内国高安郡の特殊性

◇ 玉祖神社の北西1kmに、中河内最大の古墳、心合寺山古墳(墳丘全長130m)が所在する。

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