天之日矛の系譜

『記』応神段に、天之日矛の系譜がみえます。

　　　　　　　天之日矛
      　   　　　　├─多遅摩母呂須玖──多遅摩斐泥──┐
多遅摩俣尾──前津見　　　　　　　　　　　　　　　　│
　   ┌───────────────────────┘
　   └─多遅摩比那良岐┬──多遅摩毛理
　       　        　　　　├──多遅摩比多訶────┐
　　              　　　 　└──清日子　　　　　　　├─葛城之高額比売命
　　                 　　　　　 　├─┬酢鹿之諸男　　│
　　                 　　　 　　　│　└菅竈由良度美─┘
　　　　　　　　　　　　　　当摩咩斐

「多遅摩」を冠する「多遅摩俣尾」「多遅摩母呂須玖」「多遅摩斐泥」「多遅摩比那良岐」「多遅摩毛理」「多遅摩比多訶」は、天之日矛の到達地である但馬の出石の人と思われます。

「多遅摩毛理」「多遅摩比多訶」の弟、「清日子」は、大和国葛下郡の当麻の女性「当摩咩斐」を妻として、2人の子の「菅竈由良度美」は、叔父にあたる「多遅摩比多訶」と結婚して、「葛城之高額比売命」をもうけています。

「葛城之高額比売命」は、『和名抄』大和国葛下郡高額郷の人とみられ、但馬国出石郡の天之日矛の子孫が大和国葛下郡の勢力と婚姻関係を結んで、新たな血統が形成されたことが描かれます。

『紀』垂仁紀は、次のような天日槍の系譜が記し、『記』とは清彦・田道間守の関係に異同がみられます。

　　　　天日槍
　　　　　├──但馬諸助──但馬日楢杵──清彦──田道間守
太耳──麻多烏

『紀』垂仁紀3年3月条「一云」

　　　 　天日槍
　　　　　├──但馬諸助────○────清彦
前津耳*─麻拕能烏

『紀』垂仁紀88年7月条　*〈一に云はく、前津見といふ。一に云はく、太耳といふ。〉と注記

◇　大和国葛下郡の天之日矛関連地域は、倭文神と天香香背男伝承、日子坐王伝承の関係地と重複する。（→ 垂仁諸伝承の相関性）