美濃国大野郡の勢力

『日本霊異記』上巻第2縁に、美濃国大野郡の男が女に化けた狐と通婚して、怪力の子が生まれ、美濃国の狐直の祖となったという話がみえます。(→ 美濃国大野郡の狐直伝承

「狐直」という氏族は史料に見えず、大野郡の有力勢力をモデルとして架空の氏族名を用いて描いた寓話と推測されます。

史料上に残る、大野郡の氏族として、『続日本紀』大宝2年(702)7月乙亥(10日)条に、「美濃国大野郡の人、神人大、八蹄の馬を献る。稲一千束を給ふ」とみえ、神人(みわひと)の存在が確認できます。

神人の拠点は、『和名抄』の美濃国大野郡大神(おおみわ)郷とされ、揖斐川左岸、岐阜県揖斐川町三輪地区に比定されます。(『日本歴史地名大系』(JapanKnowledge):岐阜県:美濃国>大野郡>大神郷)

また、天平勝宝2年(750)4月6日の仕丁送文(正倉院丹裏古文書)に、「美濃国大野郡上荒郷戸主阿漏人小寸戸口阿漏人大嶋」「美濃国大野郡上荒郷戸主牟下百国戸口阿漏君国麻呂」がみえ、阿漏人・阿漏君という氏族が上荒郷にいたことがわかります。

上荒郷は、『和名抄』美濃国大野郡上杖郷とみられ、岐阜県揖斐郡大野町上秋(かんだけ)が遺称地とされます。

『和名抄』大野郡上杖郷・下杖郷は、奈良時代に、上荒郷・下荒郷を称し、さらに以前は、藤原宮跡出土木簡に「癸未年(683)七月三野大野評阿漏里」とみえる、阿漏人・阿漏君に因む阿漏里であったと考えられています。(『日本歴史地名大系』(JapanKnowledge):岐阜県:美濃国>大野郡>上杖郷)

『日本霊異記』上巻第2縁の狐直のモデルの候補として、神人・阿漏人・阿漏君が推測されます。

また、『尾張国風土記』逸文に、「美濃国の花鹿山」の賢木を用いて、尾張国丹羽郡の阿豆良神社の祭祀を創始したことがみえ、「花鹿山」は、『延喜式』神名帳の美濃国大野郡の花長神社・花長下神社(岐阜県揖斐川町谷汲名礼)を示します。(→ 『尾張国風土記』逸文のホムツワケ伝承

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