因幡国伊福部氏の系図で、延暦3年(784)成立と推定される『因幡国伊福部臣古志』に、初代から26代までの名がみえます。
14代の武牟口命について、日本武尊(ヤマトタケル)の命令により因幡国の討伐に下ったと記され、伊福部臣の実質的始祖とみられます。
初代から13代までの祖神は、次のとおりです。
代数 | 祖神名 | 代数 | 祖神名 |
1 | 大己貴命 | 8 | 櫛玉神饒速日命 |
2 | 五十研丹穂命 | 9 | 可美真手命 |
3 | 建耳丹穂命 | 10 | 彦湯支命 |
4 | 伊勢丹穂命 | 11 | 出雲色雄命 |
5 | 天沼名桙命 | 12 | 内色雄命 |
6 | 天御桙命 | 13 | 伊香色雄命 |
7 | 荒木臣命 | 14 | 武牟口命 |
(佐伯有清『新撰姓氏録の研究 考証篇第三』1982年、454~456頁)
『因幡国伊福部臣古志』では、伊福部氏の始祖は「大己貴」となっています。
2代は「五十研丹穂(イキシニホ)」であり、3代・4代の「建耳丹穂」「伊勢丹穂」は「丹穂」が共通しているので、イキシニホの関係神と思われます。
8代は「櫛玉神饒速日(ニギハヤヒ)」となり、9代から13代まで、「可美真手」「彦湯支」「出雲色雄」「内色雄」「伊香色雄」とニギハヤヒの神系に属する神々が続きます。
ところが、『姓氏録』における、伊福部氏の祖神は「ホアカリ(火明)」です。
『因幡国伊福部臣古志』と『姓氏録』が一致せず、不可解な事象となっています。
いっぽう、『旧事紀』「天孫本紀」に、これまた不可解なこととして、ホアカリ・ニギハヤヒ・イキシニホを同一神とする記述がみえます。(→ ホアカリ・ニギハヤヒ・イキシニホの一体性)
『因幡国伊福部臣古志』と『姓氏録』の伊福部臣の祖神の不一致は、「天孫本紀」のホアカリ・ニギハヤヒ・イキシニホの一体性と同根の問題の上にあると推測されます。
◆ イキシニホについて包括的に知りたい方は、「イキシニホをめぐる問題点」をご覧ください。