売布(めふ)と女布(によう)

『延喜式』神名帳に、売布神社・高売布神社・売夫神社が合わせて7社みえ、「売布」「売夫」は「めふ」もしくは「ひめふ」とよばれます。

国郡名称読み方所在地
1丹後国熊野郡売布神社ひめふ京都府京丹後市久美浜町女布
2丹後国竹野郡売布神社めふ京都府京丹後市網野町木津
3但馬国気多郡売布神社ひめふ兵庫県豊岡市日高町国分寺
4摂津国河辺郡売布神社めふ兵庫県宝塚市売布山手町
5摂津国河辺郡高売布神社たかめふ兵庫県三田市酒井
6出雲国意宇郡売布神社めふ島根県松江市和多見町
7尾張国中島郡売夫神社ひめふ愛知県稲沢市平和町嫁振

但馬国気多郡の売布神社(兵庫県豊岡市日高町国分寺)は、近世には「祢布ヶ森大明神社」と称しており、「祢布ヶ森」は、但馬国府と推定される祢布ヶ森遺跡(兵庫県豊岡市日高町祢布)の地です。(『日本歴史地名大系』(JapanKnowledge):兵庫県:城崎郡>日高町>禰布村>祢布ヶ森遺跡、日高町>石立村)

「祢布ヶ森」の「祢布」は「によう」と読みます。

丹後国熊野郡の売布神社の小字の「女布」も「によう」と読みます。

京都府舞鶴市「女布」の地名も「にょう」と読みます。

但馬国・丹後国の「祢布」「女布」の地名は、「売布(めふ)(ひめふ)」と同義とみられますが、「によう」「にょう」と発音されます。

いっぽう、摂津国河辺郡の売布神社・高売布神社は、若湯坐連が祖神の大売布(おほめふ)を奉祭した神社とみられます。(→ 摂津国河辺郡の売布神社・高売布神社

売布神社・高売布神社6社にかんしては、「売布」の用字と「めふ」「ひめふ」と呼称が一致し、祭神も同一とみるのが自然で、大売布を奉祭した神社と推測されます。(尾張国中島郡の売夫神社も、大売布を祭神とします)

では、「によう」「にょう」についてはどのように考えるのか。

若湯坐連は2系統あり、「大売布」を祖神とするもの、「胆杵磯丹杵穂(いきしにほ)」を祖神とするものがいます。(→ イキシニホ後裔氏族

「胆杵磯丹杵穂(いきしにほ)」は、『因幡国伊福部臣古志』に「五十研丹穂」と表記され、「建耳丹穂」「伊勢丹穂」という類似神がみえるので、「にほ(丹穂)」が神名の核と思われます。(→ 『因幡国伊福部臣古志』のイキシニホ

「によう」「にょう」は「にほ」であり、「売布(めふ)」は「丹穂(にほ)」と同義で、「入れ替え可能」であったのではないかと思います。

若湯坐連の祖神は、「大売布(おほめふ)」と「胆杵磯丹杵穂(いきしにほ)」の2つが存在するようにみえるけれど、実態は同一神であったと考えます。

◆ イキシニホ、メフの問題を包括的に知りたい方は、「イキシニホをめぐる問題点」をご覧ください。

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